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投稿日2010年10月30日

小沼充 大津磨き 葛飾劇場

東京都葛飾区のU様邸新築現場に於いて大津磨きと、土佐漆喰の
塗り壁施工が 忍者左官 小沼充氏の手により行われました。

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予てより伝統的左官の塗り壁工法にご興味をお持ちのお施主様のご要望で
積水ハウス様のご協力により和室への施工が実現しました。

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和室の壁面全体は土佐漆喰のかた押さえで仕上げてもらいました。
表面の均一な仕上がりと、入り隅、出隅の面の美しさは見事です。
そして、大津壁の施工は正面の壁に額縁を取付け赤の磨きで行われます。

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10月24日(日) いよいよ和室の仕上げ最終日、朝から大津磨きの
本番開始です。
輪島塗の三段重ねの岡持を広げれば大津を仕上げる鏝のラインナップが
表れ、使用する順番に取り出し並べます。

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正面の額縁の中は1週間前に中塗りを施し準備万端整っています。
3週間寝かした灰土のあんばいを丁寧に混ぜながらチェックする小沼氏、
この段階で表情が徐々に引き締まってきました。
普段はお茶目な氏が壁に向かう時、カリスマ忍者左官に変身し、
大津磨きのプレミアムスイッチが入ります。

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お施主様が見詰める中、いざ灰土の下塗り開始です。

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1回目の灰土の下塗は下地の中塗り土の水引が早い為、
素早く平滑に塗り付ける必要があります。

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比較的早い時期に鏝の動きが重くなり始めますが、
しっかりと圧をかけて押さえ込んで表面をこなしていきます。

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1回目の灰土の押さえ込みが終わり左の手の平で水引の具合を確かめます。

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締まり具合を見極め2回目の灰土を塗り付け、空かさずしっかりとした
鏝圧をかけて壁面を平滑に追い込んで行きます。
この段階で既にうっとりするほど美しいしっとりとした壁面が出来上がっています。

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次の段階の引土を塗り付けるタイミングを見る小沼氏、
こうして全てが終了するまで緊張の糸が張り詰めっ放しです。

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30分程頻繁に手の平を当てて様子を見た後、
今だとばかりに一気に小さめのノロ塗り付け鏝で引土を塗り込みます。

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お施主様の目を釘付けにする引土を塗り付ける鏝の動きの手早さは
何ともお見事!
手首を使い鏝を細かく素早く動かすことで引土に入っている紙スサを
分散し、塗りつけ面に早く均等に密着させる為の動作です。
時間との勝負に見ている方もついつい手に力が入ってしまいます。

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その後押さえ鏝で充分に下地に馴染む様、力を込めて押さえ込みます。

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まるで鏝、材料、壁面と見つめ合い会話をしているかのような仕草に、
大津の世界に一気に引き込まれます。

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ふと足下に目をやれば あれれっ スリッパの主は・・・

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日左連青年部長 我らの(株)あじま左官工芸 阿嶋一浩氏がお見えになりました。
緊張感に包まれていたその場の空気が一瞬和んだ一時でした。

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2回目の引土塗りも終わり、最終段階に入ってきました。

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更に鏝に体を預けるようにして押さえ込んでいきます。

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ハードな大津技に、手首、腕、体が悲鳴をあげています。
まさに、心技体が一体化して成せる技!
凄い迫力です。

磨き鏝で仕上げる姿を夢中で見ていて、どれほど時間が経ったでしょうか?
「終わりました」 の声にはっとして我に返ります。
舞踊を見ているような、格闘技を見ているような・・・。
美しく、力強い大津磨きの技に思わず拍手です!

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全て自然素材で仕込んだ手作り材料の数々、下地から仕上げまでの数工程、
体の一部のような沢山の鏝、そして心技体、どれが欠けても仕上がらない
大津磨きは左官技の最高級仕上げと言われる由縁です。

氏曰く 「下地が全て」
大津磨きを数多くこなして来た左官職人のこの言葉に塗り壁の技が集約されています。
常に物事の先を読み、人の3倍は動く忍者左官が発する言葉には感動の重みがあります。

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仕事が終わった途端にお茶目な笑顔の小沼氏に戻ります。
この悪戯っぽい笑顔がたまらなくいいんです!
仕上がった大津壁と同じ位い良い表情ですね。

榎本新吉氏の一番弟子として伝統的左官工法を確実に習得し、
それを更に進化させている小沼氏の飽くなき探求心は、
業界に大きな夢を与えてくれる左官魂と左官愛なのです。
タップリと忍者左官の大津磨きワールドに浸れた一日でした。

そして何より大事なことは、本物を求めるお施主様が居て下さる事が
全てだと思います。
こだわりを持つお施主様ほどその選択肢の中に塗り壁の良さが加わることは
間違いありません。
この日も全ての行程を一緒に見て感動していただきました。
左官職人と材料屋にとって一番嬉しい瞬間です。
お施主様の良い家を一緒に造ろうと言う有り難い思いが、
職人魂を育ててくれるのですね。

U邸お施主様、積水ハウス様、小沼充様、阿嶋一浩様、ありがとうございました。

※今回の施工のDVDを弊社事務所でご覧いただけます。

※ソムリエ雑記再録のため現在と異なる情報が掲載されている場合がございますのでご了承ください。

土と石灰のソムリエ

冨澤 英一

富沢建材株式会社代表取締役。1953年東京都中野区生まれ。昭和26年に父が創業した建材店を2代目として継ぐ。顧客であった左官・故榎本新吉さんに幼少のころから可愛がられ、その縁で『左官教室』元編集長・小林澄夫さん、左官・久住章さん、全国各地で活躍する多くの名工、名人に出会う。以降、左官の技や自然素材に惹かれ、熱心に各地に足を運び、そこで産出する土や砂、石灰などの左官材料を集め、販売している。

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