松木憲司 パオ連続講座
7月4日(日) パオ連続講座 松木憲司氏の、
「マサ土の国から」 が開催されました。
松木氏は、平成9年 第33回全国左官技能競技大会で優勝、日本一を獲得し、
現在はエキスパート集団 蒼築舎(株)の代表として、主に三重県を中心に本格的
土・漆喰の仕事をこなす凄腕左官です。
このパオ連続講座は、次から次とスーパースターが登場する
本当に凄いイベントです。
しかも、今回は名古屋の(有)勇建工業 加村義信氏(壇上左)も登場!
迫力の布陣で講座スタートです。
とても綺麗な球体が展示されています。
これも松木氏が得意とする、タデラクトで仕上げた作品です。
表面の艶が何とも深みのある、吸い込まれてしまいそうな光を放っています。
何かこの時点で、松木氏が占い師のように見えて来ました。
占い左官 松木憲司の世界・・・あなたの未来を占います!?
タデラクトの仕上げで使う磨き石です。
タデラクトとは、モロッコで古くから伝わる伝統の左官技術です。
その起源はローマ時代と言われています。
壁、床、浴槽、洗面台などあらゆる所に施工が可能な技術です。
水硬性石灰を材料として、塗り付けた表面を小さな磨き石で
丁寧に磨き込み仕上げていきます。
その仕上がりは天然石を思わせる艶と透明感を持ち合わせ
丈夫さも兼ね備えた素晴らしい技法です。
松木氏は2007年にドイツで行われた世界7カ国の技能者が集結する
タデラクトミーティングに植田俊彦氏と日本代表として参加されました。
氏の高度な左官技術と鏝の素晴らしさは参加者の注目を浴び、
世界の職人さんに日本の伝統工法の素晴らしさを大いに教示されたのです。
セメントが無い時代の防波堤にも施工された、服部長七の三和土(たたき)で
有名な三重県ですが、その地元四日市での仕事が多い松木氏が残す作品は、
あらゆる左官技が見られる究極の左官パラダイスなのです。
見事な黒漆喰仕上げの塀です。
この現場は松木氏の大親友でライバルである伊勢の 工房カズ 西川和也氏が受けた豪邸で、
同じ三重県人、技を競い合って表裏で何十スパンも磨きあげました。
技術的、体力的、精神的に全力投球で施工した代表作の一つです。
若手職人さんの笑顔に、成し遂げた喜びが溢れています。
本当にいい顔してますね。
伊豆にも持てる技術を結集した、後世に残る「ナマコ壁」があります。
完成度の高さは素晴らしく、年数が経っても美しい状態が保たれています。
あらゆる「かまど」の制作もお手のものです。
熱効率からデザインまで使う人の身になって作り上げる作品は、
思わず美しいと唸る秀作です。
心を込めて制作した鯛焼き屋さんの鏝絵です。
人を引き付ける出来映えに、益々お店のご繁盛間違い無しですね。
その他、土佐漆喰も得意技とするオールラウンドプレーヤーです。
松木氏が愛する地元の土、マサの原土です。
左が風化したマサ土、右が風化前の花崗岩で、
マサ土の固まりは手でボロボロと崩れる程の柔らかさです。
これを篩って作ったマサ土が、磨きやあらゆる施工で威力を発揮する優れ物なのですね。
マサ土で作った綺麗な洗い出し見本です。
見とれてしまう自然の美しさです。
この様に白い固まりが花崗岩で、その廻りに風化したマサ土が見えます。
現地を視察したインタビュアー 木村謙一氏は、こんな丸見え地層に遭遇し狂喜乱舞したとか!
土中毒患者の典型的な症状です!!
また、松木氏の土に対する探求心は留まるところを知らず、
九州熊本まで出かけ、水に溶けない土も探し出しました。
誰にも負けない土を愛する気持ちがひしひしと伝わってきます。
左官職人さんて本当に素晴らしいですね。
講座での氏の語る姿がとてもカッコイイです。
松木氏の現場の様子です。
大勢の左官職人さんで一斉に大津壁の磨きを行っています。
大迫力ですね。
いつも現場は活気と笑顔が絶えません。
何故だろうと見ていると、現場には軽快な♪けんちゃんリズム♪があるんですね。
現場以外でもいつも廻りの人を虜にする楽しいリズムの持ち主なんです。
そう、左官に大事なリズムがあるんですね。
実は、松木氏のお父様はミュージシャンだったのです。
なるほど、仕事は違えどその血をしっかり受け継いでいるのですね。
良い仕事はここから生まれて来るのです
廻りの人にいつも優しい松木憲司氏ですが、いざ鏝を握ると
きりっとした表情に変わります。
持てる技と豊富な知識をその都度全力で発揮し、
更に絶え間なく伝統工法や新しい技術の研鑽を積み
突き進んで行く姿は多くのお施主様と若者に感動を与えています。
松木憲司氏の生き様はまさにこれからを考える近代左官そのものなんですね。
心地よい 「けんちゃんの左官リズム」 に酔った講座でした。
松木憲司様、木村謙一様、パオの皆様、ありがとうございました。
※ソムリエ雑記再録のため現在と異なる情報が掲載されている場合がございますのでご了承ください。
冨澤 英一
富沢建材株式会社代表取締役。1953年東京都中野区生まれ。昭和26年に父が創業した建材店を2代目として継ぐ。顧客であった左官・故榎本新吉さんに幼少のころから可愛がられ、その縁で『左官教室』元編集長・小林澄夫さん、左官・久住章さん、全国各地で活躍する多くの名工、名人に出会う。以降、左官の技や自然素材に惹かれ、熱心に各地に足を運び、そこで産出する土や砂、石灰などの左官材料を集め、販売している。