品川左官 西荻窪の家
梅雨が明けた7月中旬の猛暑の中、兵庫県加古川の
皆様ご存知 品川左官様が東京杉並区の西荻窪で
ねずみ漆喰とドライウォッシュ工法床仕上げを施工されました。
西荻窪駅直ぐ近くのその建物は、昭和3年に建てられた趣のある
日本建築の木造住宅です。
この辺には古き良き建築物が結構残っています。
その内の一軒がギャラりー兼、店舗として生まれ変わろうとしています。
室内に入り昭和初期にここではどの様な生活が営まれていたのか
暫し思いを巡らせます。
下の写真は映画での1シーンを撮ったものだそうです。
オーナー様のご希望でこの壁のイメージを求められています。
仕上がった壁を優しい視線でながめる品川博氏です。
オーナー様の思いに応えるその姿には左官愛が一杯溢れています。
今回のねずみ漆喰の施工は均一な表情ではなく、
映画の中に出てきた壁のように経年変化を表現する事を求められています。
それを表現すべく下塗りから上塗りの押さえまで技と神経を使う作業です。
慎重な鏝運びに見ている者も引き込まれていきます。
そして、品川左官様の手によってネズミ漆喰が施された壁は、
和の空間にさらに落ち着いたモダンの風がそよいでいます。
床の仕上げはドライウォッシュ工法で黒の配合をベースに、
岡山の寒水石5厘を使用します。
モルタル下地にシーラー処理をしてベースの樹脂モルタルを下塗りします。
7分乾きの上に黒のネタ材を手際よく塗り付けていきます。
定木であたりを見てフラットな面を形成していきます。
仕上時に綺麗な揃った面を出す為に大事なのはこの伏せ込みです。
砂利の頭が綺麗に表面に列ぶように鏝を運びます。
塗り付け開始直後の鏝に石が当たるジャーと言う音から、優しく撫きる頃には
シューと言う軽い音に変わって来ます。
熟練の技が充分に発揮される時です。
ピタリと押さえ込まれた面に目地切りをします。
丁寧に元首シビ引きで溝を切っていきます。
実に綺麗に収めていますね。
締まり具合を見てドライウォッシュブラシで表面を擦り寒水石の頭を出していきます。
手元の動きが速くてなかなか写真が決まりません!
4人で一斉にドライウォッシュをしている様子はハイテンポなリズムで楽しそう!?
いや、いくら慣れているとは言え屈んでの作業は大変そうです。
楽しそうなどと言ったら怒られますね。
お見事!
玄関の部分が綺麗に仕上がりました。
伏せ込みとドライウォッシュの技が生み出す素晴らしい表情です。
時間が経ち人が歩き込むことで更に石の頭が磨き込まれ、
美しい輝きを放つ床になっていくことでしょう。
ここで品川左官の皆さんをご紹介します。
4人兄弟皆様左官職人でご長男は亡くなられたそうです。
先ずは品川家ご次男の房男氏です。
現在は一番長老で親方として品川左官をまとめておられます。
一番の元気左官職人でエネルギッシュに活動する姿が目に焼き付きます。
技も凄いがジョークも切れる!
施工中の緊張の合間に房男氏の一言で笑いが絶えない品川ファミリーです。
三男の清志氏です。
左官の技術も特級品ですが、鏝・左官道具類を何でも作ってしまう凄腕なのです。
漆喰の塗り付け鏝、鏝絵用の先が豆粒のような小さな鏝、面引き、
その他何でも鍛冶屋さんも脱帽の世界です。
そして、四男の博氏です。
その名は全国の左官職人さんの知るところで、その作品は2000㎡もある
漆喰の現場から、各地記念館・大学等に掲げられている大小絶品の鏝絵、
はたまた本物と見間違えるモルタルの蟻、サンショウウオ、ヤドカリ、ひものなど、
その技は神懸かり的なものばかりです。
尚かつ、その経験から生まれる新しい鏝や道具、ドライウォッシュなどの新工法など
左官の世界を開拓し続けるカリスマ左官なのです。
酉は博氏のご長男 福太郎氏です。
数年前に中目黒の現場でお目に掛かって以来の再会です。
すっかり頼もしくなって品川左官の血統を引き継ぐオーラが溢れ出ています。
カッコ良くて腕も確か、将来どんなカリスマになるのか楽しみな好青年です。
これが清志氏の宝箱・・・いや鏝を収めたアタッシュケースです。
全てが手作りの究極の鏝がびっしりと列んでいます。
見る人誰もが言葉を無くす美しさで、触れるのもためらうほどひかり輝いています。
でもこれ実際に使われていると聞くとさらにビックリ!
このこだわりの世界どこまでやるのでしょうか?
良い鏝、道具があって初めて良い仕事が出来るのでしょう。
博氏曰く 「この鏝もう少しこうしてほしい、ああしてほしいと、兄の清志に言うと
次の日の朝には手直しして持って来てくれます。」
なんという左官職人兄弟でありましょうか!!
皆さんお揃いで一枚。
中央の美女はこの建築の記録を担当する倉橋美香子さんです。
素晴らしい記録ブログ西荻プロジェクトを更新されています。
品川さんが東京でお仕事をされると聞いてこの日を楽しみにしていました。
間近で拝見する品川左官の技の数々、やはり凄いの一言です。
夏の暑さ以上に左官の熱さを体一杯に体験できた素晴らしい
西荻窪の家でした。
オーナー様、倉橋様、品川左官様、皆々様、ありがとうございました。
皆様の益々のご健勝をお祈り申し上げます。
※ソムリエ雑記再録のため現在と異なる情報が掲載されている場合がございますのでご了承ください。
冨澤 英一
富沢建材株式会社代表取締役。1953年東京都中野区生まれ。昭和26年に父が創業した建材店を2代目として継ぐ。顧客であった左官・故榎本新吉さんに幼少のころから可愛がられ、その縁で『左官教室』元編集長・小林澄夫さん、左官・久住章さん、全国各地で活躍する多くの名工、名人に出会う。以降、左官の技や自然素材に惹かれ、熱心に各地に足を運び、そこで産出する土や砂、石灰などの左官材料を集め、販売している。